随想リレー2011 「絵画作品寄贈の思い出」 甲本 喜胤先生

 今振り返ってみると、姫路別所高校に勤務した16年間は、私にとって教員生活かけだしの時期でもあり、前半はわけの解らないままに、自分の担当だった生徒指導の諸課題にがむしゃらに取り組むだけでした。
草創期の気運もに満ち溢れていたそのころは、今でいう名物先生ふぁ多く居られて、教育実践についてイロハを多く学ぶことができました。
時には自分と異なる考えや方法に戸惑いを覚えたこともありましたが、会議等で方向が決まると、教職員が一丸となり力を合わせて取り組むのが別所流でした。

 生徒指導部長や学年主任をした後半の頃は、少し広い視野に立ち学校全体を俯瞰することを心がけました。
歴代校長からご教示いただいた教育に取り組む姿勢や教育愛についての教えは、その後、大いに役立ちましたし、現在勤務する大学での教職課程の指導の仕事にも活かされていると感じています。
 現に、私のこの学校にいた時の生徒たちと同様、素直で明るく前向きな性格の学生で、将来は是非この地で教壇に立ってほしいと願っています。

 さて、この友城会会報への寄稿について、前回の寄稿者の佐々木先生から、「寄贈した絵画作品の思い出など」をテーマに語って欲しい、とお話をいただきましたので、寄贈作品を制作した当時の話をします。
 当時、私は大変多忙な職場にいたのですが、自分が関わる絵画の分野で、お世話になった学校に貢献できる良い機会だと、お引き受けし、製作に入りました。

 生徒玄関から少し広いピロティーの壁面は縦横とも大変大きく、一つの作品ではとても場の雰囲気が持たないことに加え、学校という場に飾る絵画作品としてどんな内容のものが良いのか苦心しました。
その結果、現在の「早春帰巣」「初夏群雄」という画題の2つの作品になりました。

 最初に取り掛かったのはグラウンドの南東側にある萱の茂る小さな池から遠望した校舎と、その後ろの山並みを絵にしたものでした。
最初の作品の下書きをしたのは、前日に降った雪がまだ残る早春の3月でした。
山並みの深みを表現するために、わざわざ山深い一宮の奥へ何度か取材に行って多くの写真を撮って参考にしました。

 2枚目の作品に取り掛かった時は、もう初夏になっていて、市川河口の阿成の港に取材し、カモメの群れ飛ぶ様子を絵にしました。
どちらの作品にも共通しているのは、「鳥」がテーマになっていることです。
前作品では2羽の白鷺であり、後の作品では群雄するカモメです。
 空高く飛ぶ鳥は、同時に生徒たちの姿にイメージを重ねたものでもあります。
ちなみにこれらの作品は油絵ではなく、西洋で油絵技法が開発される以前の卵テンペラという古典的な表現技法で描いています。 創立20周年を記念してPTAから寄贈された2作品ですが、記念式典の当日、作品の除幕式にも立ち会うことができました。

 その後、30周年行事の際には、今は亡き飯塚校長先生の依頼で、事務室窓口横に、アクリル絵具で5月の牛窓を描いた作品を寄贈しました。
以前、転勤時に寄贈した会議室の油絵作品、校長室の油絵と陶芸作品なども飾っていただいていますので、学校に立ち寄られた際にはぜひご覧になってくだしさい。