随想リレー2009 「遠き日の点描」 松本 哲郎 先生

 私は、開校以来16年間も姫路別所高校にお世話になりました。その間、多くの出会いに恵まれ、すばらしい体験や、忘れ得ぬ思い出を持つことができました。
 今、その幾つかを再生してみます。

 「それは、御国野校舎(旧御国野小)北側の崖下に建っていた。 南端が職員室、続いて4つに仕切られたベニヤ造りの教室が、本校舎と渡り廊下で繋がっていた。

 窓から舞い込むさくら吹雪、天井を通して交錯する授業の声、突如鳴り出す御着有線放送、幼稚園からのかわいい歌声、雨の日は、屋根で奏でるシンフォニー等々の奇妙な取り合わせの中で、春は過ぎていった。

 6月下旬になると連日34~35度の室温を記録し、まるで蒸し風呂のような状態であった。

 7月中旬の保護者会で、汗を流しながら懇談されていたお母さんと担任の先生の姿を、暑い夏が来るたびに思い出す。」(育友会会報 第8号所収)
「あの頃はよかったね。」と、2回生諸君に会うと懐かしいそうに眼を輝かす。 その言葉にすべてが見通せる。 私にとって、忍耐をモットーにして、不備な環境を克服しながら過ごしたプレハブ校舎での半年は、忘れ得ぬ体験である。

 「おーい、用意はいいか。隣りとの間隔は充分とれているなぁ。では、注意して始めよう。」

 昭和54年初秋の午後、本館南側の校庭の掘り起こし作業が始まり、文部省指定の勤労体験学習がスタートした。

 掘り起こし─盛り土─聖地を経て、秋たけなわの頃に芝張り。 殺風景だった校舎が、見違えるように整備されていく。 自分たちの手でつくるという意識を強く持っている様子が、手に取るように伝わってくる。
秋野菜を蒔こうと鍬を振るっていて、ふと、あの時の、額に汗をして一生懸命がんばっている姿が眼に浮かんできた。

 鹿島神社に参詣したついでに、耐寒登山等で歩いた山道を下り、学校を訪れ校庭を歩いていると、あちこちに卒業記念の品が目につく。 「時計台(塔)」「水銀灯」「小庭園」…中でも多いのは記念碑(「夢」「友愛」「校訓碑」「雨洗風磨碑」…)である。

 特に、「校訓碑」は創立7年目になり、諸施設の外観は次第に整備されてきたので、内なるものの充実を願って造られたものである。

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 「友愛」「責任」「自立」には、時には迷い、悩み、何かを求めて模索し続ける後輩たちに、充実した青春を過ごしてほしいという5回生の思いが込められてていると思う。
私も、その建立に関わりを持っただけに、ひとしお印象に残る一つである。

 終わりにあたり、卒業生の皆さまのなお一層のご活躍をお祈りします。

(「会報 友城2008」『随想リレー』より)


【略歴】
 在任期間: 昭和51年04月01日~平成04年03月31日